医療者にこそ“デザイン思考”が必要な理由──複雑な医療を、やさしく届ける技術
難しい医療情報を、そのまま届けようとしていませんか?
“内容は正しいのに伝わらない”のは、あなたのせいではありません。
医療者に必要なのは、芸術的センスではなく「情報を翻訳する技術」です。
医療現場で働いていると、「内容は完璧なのに、なぜか伝わらない」という瞬間に必ず出会います。
スライドは作り込んだ。データも揃っている。自分なりに要点も整理した。
それでも、聴衆の反応が薄い。患者さんに説明しても伝わりきらない──そんな経験はありませんか?
医学は年々高度になり、情報量は指数関数的に増えています。
しかし、その大量の情報を “いかに相手に理解してもらうか” という技術は、ほとんどの医療者が学んだことがありません。
僕自身、泌尿器科専攻医として学会発表や後輩指導を続ける中で、
「医療者こそ“デザイン思考”を持つべきだ」
と強く感じるようになりました。
ここでいうデザインとは、ポスターを“おしゃれにする”ことではありません。
複雑な医療情報を、正しく・速く・誤解なく届けるための設計技術 のことです。
この記事では、なぜ今、医療者にデザインが必要なのか。
そして、なぜ僕が「医療×デザイン」をテーマにケンタログを作ったのか。
理念をまじえて丁寧にお伝えします。
医療現場で起きている「伝わらない」という損失
医療現場は、コミュニケーションによって成り立っています。
研究、カンファ、手術説明、患者教育、学会発表……
言葉と情報が正しく伝わらなければ、医療は前に進みません。
しかし現実はどうでしょう?
伝わらなかったことで「損している」場面は多い
- 素晴らしい症例報告が、読みづらいスライドのせいで印象に残らない
- データの意義は大きいのに、グラフが見づらく理解されない
- 患者説明書が難解すぎて、服薬遵守が下がる
- 新しい治療プロトコルの共有が不十分で、現場に浸透しない
これは、医療者が悪いわけではありません。
情報が複雑すぎるだけです。
認知負荷(Cognitive Load)が限界を超えている
人間の脳は「理解する前に、読むこと自体に疲れる」ことがあります。
それが “認知負荷” です。
- 文字だらけ
- 専門用語がギッシリ
- 図の中に情報を詰め込みすぎ
- レイアウトがバラバラ
- 行間と余白がない
こうした資料は、内容云々の前に
“読み解くためのエネルギー”を奪ってしまいます。
本来、そのエネルギーは
内容の理解に使われるべきものです。
“伝わらない”というのは、
誤解ではなく「構造上の失敗」なのです。
「デザイン=装飾」という誤解を捨てよう
医療者の多くは、デザインに対してある誤解を抱えています。
それは──
デザイン=おしゃれにすること(飾り)
という認識。
しかし実際のデザインとは、
「情報を受け取り手に合う形へ翻訳する技術」 です。
デザインとは“見た目の問題”ではない
デザインは本来、
- 問題の発見
- 情報の整理
- 構造の設計
- 最適な伝達手段の選択
という、“問題解決のプロセス”です。
スライドをきれいにすることも、色を整えることも、
すべては 「伝わる」ための手段 にすぎません。
センスは不要。必要なのは「ルール」
医療はルールの世界です。
治療プロトコルや診察手順が明確であるように、
デザインにも “再現性のある法則”があります。
たとえば──
- 余白(ホワイトスペース)の使い方
- 情報の“階層構造”
- フォントの強弱
- 配置のリズム
- 図解のルール
- 色の役割
これらはすべて 知れば誰でも再現できる技術 です。
つまり、
医療者はデザインと相性が良い のです。
あなたが「センスがないからできない」と感じていたのは誤解です。
本当は、ルールを知らなかっただけなのです。
医師は“情報の翻訳者”である
医師の仕事の半分は、
「難しい情報を、相手が理解できる形に翻訳すること」 です。
医学は“難しすぎる言語”で書かれている
- 専門用語
- 大量の数値
- 構造と機序
- 原因と結果
- リスク
- 検査結果
- カンファでの複雑な議論
このすべてを、
患者、家族、後輩、他科医師、多職種……
相手に合わせて調整しなければなりません。
翻訳の手段として「視覚情報」が圧倒的に強い
言葉だけでは限界があります。
同じ説明でも、
図・アイコン・フロー図・色・余白・レイアウトを使うだけで
理解速度は何倍にも上がります。
デザインとは、翻訳の速度を上げる武器なのです。
本ブログ(ケンタログ)の姿勢
ケンタログが大切にしているのは、
「美しく整える」ことではなく、
“誤解なく、速く、正確に伝えること”。
これは医師にとって、最も大事な能力のひとつです。
僕が「医療×デザイン」を発信する理由(原体験)
ここからは、僕自身の話をします。
医療とデザインに向き合うようになったきっかけです。
最初は“頼まれた”だけだった
医局でスライドやポスターを作っていたのは、
単に「器用そうだから」という理由でした。
しかし、先輩のスライドを整理して渡したとき、
その反応に驚きました。

「めちゃくちゃわかりやすい」

「図解にしただけで、説明が倍速になった」

「このポスター、すごく評判良かったよ」
そのとき思ったのです。
デザインは“才能”ではなく、医療者にこそ必要な技術なんだ、と。
ベストプレゼン賞を取れた理由も“デザイン”だった
内容が特別だったわけではありません。
珍しい症例でもありません。
「情報を整理し、伝わる形にした」
それだけで、聴衆の集中度が違いました。
自分の話がしっかり伝わり、
座長の先生が「メッセージがクリアだった」と言ってくれたとき、
伝える技術の必要性を身をもって感じました。
デザインが“医療を助ける瞬間”を何度も見てきた
- 患者の理解度が上がり、治療への納得が深まった
- カンファで治療方針の議論がスムーズになった
- 後輩の学会発表が劇的に改善した
- 同僚が自信を持って発表できるようになった
その度に思いました。
「デザインは、医療を前に進める。」
これが、ケンタログを立ち上げた理由です。
このブログで実現したい“医療の未来”
ケンタログの目的は、
医療者の“資料作成の苦痛”を減らし、
大切な時間を「医療の本質」に使えるようにすることです。
医療者が抱える「資料作成の地獄」
- 時間がかかる
- どこから手をつけていいかわからない
- 画像探しに疲れる
- 文章が長くなる
- 1枚のスライドに2時間
- 前日の深夜まで作業
僕自身、何度も経験しました。
だからこそ、
忙しい医療者でも、ルールを真似するだけで整う方法 を発信したい。
ケンタログで得られること
- 誰でも使えるデザインの基礎
- スライド・ポスター・資料の作り方
- 医療者に最適化された具体例
- すぐ真似できる時短テクニック
- 「伝わらない」を「伝わった」に変える方法
- 忙しいときでも崩れないテンプレート思考
最終的に目指す姿
医療者が、
「伝わる資料が作れる」ことを当たり前にする世界。
それが、ケンタログが目指す未来です。
まとめ:まずは「整える」だけで成果は出る
デザインにセンスはいりません。
必要なのは、
「ルール」と「優先順位」だけです。
まずは、次の3つだけ意識してください。
- 余白を作る
- 情報を階層化する
- 読む順番を決める
これだけで、資料は見違えるように変わります。
ケンタログでは、
「医療者が最短でスキルを身につけられるロードマップ」を
次の記事でまとめています。

